■結論:工程表は「建方日から逆算」し、承認・材料・検査の3つの待ちを先に置く

鉄骨製作の工程表は、材料入荷 → 現寸・けがき → 切断・孔あけ → 組立 → 溶接 → 検査 → 錆止め塗装 → 出荷という工場の流れを日程に置いたものです。ただし、左から順に日数を積み上げて作ると、たいてい建方日に合いません。
建方日(現場で柱・梁を組み上げる日)は、基礎工事や他の工種との関係で決まっていて、工場側では動かせません。だから工程表は右端に建方日を置き、そこから左へ「この日までに終わっていなければならない日」を並べる逆算で作ります。
逆算するときに先に置くのが、工場の努力では縮まらない3つの待ちです。①図面承認(工作図・製作要領書・質疑の回答が出ないと、材料の最終手配も加工も始まらない)、②鋼材の納期(ミル手配か市中在庫かで日数が違い、工場では縮められない)、③検査の日程(第三者検査・監理者立会いは相手の日程で決まり、手直しが出れば再検査の日も要る)。この3つを固定してから、残った日数を加工・組立・溶接に配分します。
公共建築工事標準仕様書(建築工事編)では、この全体の工程表を実施工程表と呼び、工事の着手に先立って作成し、監督職員の承諾を受けることになっています(1.2.1)。民間工事でも同じ考え方で、元請・監理者と共有する「約束の表」として扱います。この記事では、その作り方を工程の順に説明します。
■工程表の種類と役割:全体(実施工程表)→ 月間 → 週間 → 工種別

工程表は1枚ではありません。公共建築工事標準仕様書 1.2.1 は、実施工程表のほかに、監督職員の指示があれば週間工程表、月間工程表、工種別工程表等を補足として作成・提出するとしています。粒度の違う表を役割で分けて使います。
実施工程表(全体)は、図面承認・材料入荷・製作・検査・出荷・建方といった節目を月単位で置く表です。契約書に基づく条件変更などで変更が必要になったら、直ちに変更して、当該部分の施工に先立って再び承諾を受けます(1.2.1 (3))。
月間工程表は、節(建方ブロック)ごとの製作・出荷を月の中でどう配分するかを示し、翌月の材料・人員・外注の手配に使います。週間工程表は、製品ごとの加工・組立・溶接・検査を日割りにした表で、毎週更新して遅れを翌週で吸収するために使います。工種別工程表は、溶接・塗装・検査など工種ごとの作業量の山を見る表で、検査日(第三者・立会い)と塗装の乾燥時間を確かめるのに向きます。
工程表と並んで作るのが施工計画書です。工種別施工計画書には品質計画(検査の項目・方法・確認を行う段階)を書き、品質計画に係る部分は監督職員の承諾を受けます(1.2.2 (3)(4))。工程表に置く検査日は、この品質計画で決めた「一工程の施工の確認を行う段階」と合わせておきます。
■材料入荷から出荷まで:各工程で「始める条件」と「終わりの確認」がある

工程表を日程だけの表にしないために、各工程に「始める条件」(前の工程の出口)と「終わりの確認」(この工程の出口)を決めておきます。条件が揃わないまま次に進むと、手戻りで日数を失います。
材料入荷:始める条件は工作図の承認と鋼材の発注。終わりの確認は、規格品証明書(ミルシート)と現物の照合と、材質の識別表示です。JIS のマーク表示のある材料や規格証明書が添付された材料は、設計図書に定める品質を有するものとして扱えます(1.4.4 (4)、7.2.10 (2))。
現寸・けがき → 切断・孔あけ・開先:けがきは工作図・現寸図・型板・定規等により正確に行い、490N/mm²級以上の高張力鋼や曲げ加工する外側にはたがね・ポンチによる打こんを残しません(7.3.4)。切断面は材軸に垂直で、有害な凹凸・まくれ・切欠き・スラグの付着がないこと(7.3.5)。孔径・縁端距離・ゲージは特記によります(7.3.2、7.3.8)。
組立(仮付け)→ 本溶接:組立の前に部材のひずみを矯正し(7.3.6)、組立検査で組立精度・食違い・開先形状を確認してから本溶接に入ります。溶接後は外観の確認と、超音波探傷試験などの試験(試験を行う技能資格者による。7.6.10〜7.6.12)。不合格箇所は補修して再試験します(7.6.13)。
製品検査 → 錆止め塗装 → 出荷:製品の寸法・精度は JASS 6 付則6[鉄骨精度検査基準]の管理許容差・限界許容差で確認します(7.3.3)。塗装は製品検査の後で、高力ボルト摩擦面や現場溶接部の両側 100mm 程度など塗らない部分を養生してから塗ります(7.8.2)。出荷では符号・方向マーク・出荷表を揃え、積込順は建方順の逆にします(7.10.4 搬入、7.10.5 建方)。
■逆算の作り方:建方日を右端に置き、左へ「終わっていなければならない日」を並べる

逆算の手順は次の5つです。
① 節(建方ブロック)ごとの建方日を右端に置く
② 出荷日 = 建方日 − 運搬・荷卸しの日 − 余裕
③ 塗装の乾燥時間と、製品検査・第三者検査の日程を先に押さえる
④ 残った日数を 溶接 → 組立 → 加工 に配分する
⑤ 材料の入荷日と図面承認日が、①〜④で決めた加工開始日に間に合うかを確かめる
⑤で間に合わない場合が、工程表を作る本当の目的です。ここで初めて「承認をいつまでに出してもらう必要があるか」「どの部材を先行手配する必要があるか」が数字で分かり、元請・監理者と協議する材料になります。工程表は、工場の中の予定表ではなく、相手に期限を伝えるための表です。
余裕(バッファ)は出荷の直前ではなく、動かせない相手の日程(検査・建方)の手前に置きます。出荷直前に余裕を置くと、手直しや再検査が出たときに塗装と出荷が同時に圧縮され、乾燥不足のまま出す事故につながります。
節が複数ある物件では、節ごとに同じ逆算を行い、加工・溶接の山が重ならないように前後させます。1節目の建方と2節目の製作が重なる期間に、人員と設備がどれだけ要るかを工種別工程表で見ます。
■工程が遅れる主な原因と、工程表に入れておく対策

鉄骨製作の遅れは、工場の中の作業より、工場の外で起きることが多いです。主な原因と、工程表に入れておく対策を整理します。
- 図面承認・質疑回答の遅れ:承認が出るまで材料の最終手配も加工も始まらない → 承認の期限日を工程表に書き、質疑は一覧にして期日を管理する
- 鋼材の納期:ミル手配は納期が長く、サイズ変更で振り出しに戻る → 承認前でも数量が固まった部材から先行手配する(変更のリスクは元請と協議して分担を決める)
- 設計変更・追加:現寸・切断が終わった部材の作り直し → 変更の締切日を決め、以後の変更は日程への影響を書面で返す
- 検査待ち・手直し:第三者検査の日程、超音波探傷試験の不合格箇所の補修と再試験 → 検査日を先に押さえ、自主検査で不合格を検査前に潰す
- 塗装の乾燥・天候:塗り重ね間隔、雨天・低温で乾かない → 乾燥時間を工程に入れ、出荷直前に塗らない
- 現場側の変更:建方順・搬入日の変更、揚重機の都合 → 節ごとに出荷表を分け、建方順が変わっても積み替えで対応できるようにする
遅れが全体工程に影響する場合は、監督職員に報告します。設計図書の訂正・変更、施工の一時中止、著しい悪天候などが該当します(1.1.10 (1))。工期変更の協議では、必要とする変更日数の算出根拠と変更工程表をあらかじめ提出します(1.1.10 (2))。日ごろの工程表に「どの待ちで何日止まったか」を記録しておくと、この算出根拠がそのまま作れます。
■まとめ:工程表は「作って終わり」ではなく、週ごとに直して使う

鉄骨製作の工程表で押さえる点は5つです。
- 建方日から逆算する:動かせない日を右端に置き、出荷 → 塗装 → 検査 → 溶接 → 加工 → 材料 → 承認の順に「終わっていなければならない日」を並べる
- 3つの待ちを先に置く:図面承認・鋼材納期・検査日程。工場の努力で縮まらない日を最初に固定する
- 工程の出口を確認点にする:ミルシート照合・組立検査・溶接の確認と試験・製品検査・塗装。次工程の入口条件を線でつなぐ
- 粒度を分ける:全体(承諾を受ける実施工程表)→ 月間 → 週間 → 工種別。遅れがどの段階で出たか分かるようにする
- 週ごとに更新し、変更は書面で:実施工程表の変更は直ちに直して再承諾。工期変更の協議は算出根拠と変更工程表を添える
■参考にした基準・資料
- 国土交通省『公共建築工事標準仕様書(建築工事編)令和7年版』1章 各章共通事項:1.1.10 工期の変更に係る事項等(全体工程に影響する場合の報告、変更日数の算出根拠・変更工程表)、1.2.1 実施工程表(着手前に作成し監督職員の承諾、変更時は直ちに変更、週間・月間・工種別工程表の補足)、1.2.2 施工計画書(総合・工種別、品質計画の承諾)、1.4.4 材料の検査等(規格証明書)
- 同 7章 鉄骨工事:7.2.10 材料試験等(規格品証明書)、7.3.2 工作図・7.3.3 製作精度(JASS 6 付則6)・7.3.4 けがき・7.3.5 切断及び曲げ加工・7.3.6 ひずみの矯正・7.3.8 ボルト孔・7.3.10 仮組、7.6.10〜7.6.13 溶接部等の確認・試験・不合格箇所の補修、7.8.2 塗装の範囲、7.10.4 搬入・7.10.5 建方
- 日本建築学会『建築工事標準仕様書・同解説 JASS 6 鉄骨工事』(2018)付則6 鉄骨精度検査基準(管理許容差・限界許容差)、11節 発送、12節 工事現場施工
- 工程の並び(材料入荷 → 現寸・けがき → 切断・孔あけ → 組立 → 溶接 → 検査 → 塗装 → 出荷)と「承認・材料・検査」の待ち、逆算の手順、遅れの原因の分類は、建築鉄骨製作の一般的な製作管理の整理(当社の物件固有の日数・体制ではありません)
■おわりに
上の工程の順序・確認点・工程表の位置づけは、公共建築工事標準仕様書と JASS 6 にもとづく一般論です。物件ごとの工程・検査の時期・提出書類は、設計図書・施工計画書と監理者・元請の指示が優先します。
当社は建築鉄骨の製作を、図面承認から出荷まで工程表で管理して行っています。納期・工程を含めたご相談はお問い合わせからどうぞ。製作の流れは建築鉄骨はどうやって作られる?、出荷から建方までの段取りは関連記事「建方当日までの段取り」にまとめています。
株式会社へむろ鉄工(茨城県小美玉市)。国土交通大臣認定 Mグレードの建築鉄骨製作工場です。工作図・現寸(REAL4)から製作・検査・出荷まで社内で行い、製作のみ・建方込み・協力工場としての製作分担のいずれの形でも、茨城県内と関東圏を中心に受けています。
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