■結論:溶接材料は「濡らさない・乾かす・追える」

溶接棒・溶接ワイヤ・フラックスなどの溶接材料は、溶けて溶接部そのものになります。鋼材がどれだけ良くても、溶接材料が湿気を吸っていたり錆びていたりすれば、溶接部の品質は落ちます。
公共建築工事標準仕様書は、被覆剤のはく脱・汚損・変質・吸湿・錆などのある溶接材料は使わない、ただし吸湿の疑いがあるものは種類に応じた条件で乾燥してから使う、としています(7.6.4)。ここから、管理の中身は大きく 3 つになります。
- 濡らさない(保管):屋内に置き、床や壁に直接つけない。開封後はカバーや再包装で守る
- 決められた条件で乾かす(乾燥):乾燥の温度と時間は、種類と銘柄ごとにメーカーが示す条件に従う
- どれを使ったか追える(ロット):規格・種類を確かめて受け入れ、古いものから使い、払出しと乾燥を記録する
👉 この記事では、湿気がなぜいけないのか、保管の基本、被覆アーク溶接棒の乾燥、ワイヤとフラックスの扱い、ロットと記録の順に整理します。
■なぜ湿気がいけないのか:水分が水素になり、割れを呼ぶ

溶接材料の湿気が問題になるのは、水分がアークの熱で分解し、水素として溶接金属に入るからです。溶接金属の中を動き回る水素を拡散性水素と呼びます。
日鉄溶接工業の溶接 Q&A では、溶接棒による溶接金属の水素源として、溶接棒にもともと含まれる水素源、大気中の水分、被覆剤が吸収した湿気、溶接部に付着した錆・ペンキ・油脂・水分を挙げています。
- 遅れ割れ:溶接した直後は何ともないのに、時間がたってから割れが見つかることがある。ビード下割れ・止端割れ・ルート割れなど
- ブローホール・ピット:溶接金属の中や表面に空洞やくぼみができる
- 作業性の低下:アークが不安定になる、スパッタが増える、アンダーカットが出やすくなる
被覆アーク溶接棒の被覆剤は多孔質で、水分を吸着しやすい性質があります。日本溶接協会の Q&A では、高温多湿の場所に置いた場合だけでなく、梱包したままでも長期間置けば吸湿すること、吸湿の進み方は置いた時間だけでなく気温と湿度の影響が大きいことが示されています。
鉄骨では、490N/mm² 級以上の高張力鋼や、厚さ 25mm 以上の 400N/mm² 級鋼の組立溶接を被覆アーク溶接で行う場合、低水素系溶接棒を使います(標準仕様書 7.6.5)。👉 水素を少なくした溶接棒だからこそ、吸湿させると持ち味が消えます。割れと水素の関係は予熱はいつ必要?でも触れています。
■保管の基本:屋内・床と壁から離す・古いものから

標準仕様書は、搬入した材料を「工事に使うまで破損や変質がないよう保管する」としています(1.4.6)。溶接材料の置き方については、日本溶接協会の Q&A に具体的な注意が並んでいます。
- 屋内に置く:雨や雪に直接当たらないようにする
- 湿気を避ける:高温多湿の場所を避け、風通しをよくする
- 床・壁につけない:床面・壁面に直接密着させない。ワイヤはパレットに載せ、壁から離す
- 整理して古いものから:種類・サイズを整理して管理し、製造年月日の古いものから使う
- 運ぶときも濡らさない:悪天候の屋外運搬を避け、やむを得ないときは防水して速やかに運ぶ
- 包装を破らない:落下や荷崩れで梱包を傷めない。潮風や粉じんの多い場所にも置かない
👉 鋼材は屋外に置かれることが多いですが、溶接材料は扱いがまったく違います。鋼材の置き場の考え方は鋼材の保管と錆にまとめています。
■被覆アーク溶接棒の乾燥:低水素系は高い温度で

被覆アーク溶接棒は、使う前に乾燥(再乾燥)するのが基本です。特に低水素系溶接棒は、メーカーで十分に乾燥され包装の行き届いたものでも、使用前にもう一度乾燥するとされています(日本溶接協会 Q&A)。
乾燥条件は、鋼種と銘柄ごとに決められています。例として、日鉄溶接工業の乾燥温度管理表(表12)では次のようになっています。
- 非低水素系(軟鋼用のイルミナイト系など):乾燥 70〜120℃・30〜60 分、保持 40〜60℃、許容乾燥回数 5 回
- 低水素系(軟鋼・490MPa 級):乾燥 300〜350℃・30〜60 分、保持 100〜150℃・最高 72 時間、許容乾燥回数 3 回
- 鉄粉低水素系(490MPa 級):乾燥 350〜400℃・30〜60 分、保持 100〜150℃・最高 72 時間、許容乾燥回数 3 回
日本溶接協会の Q&A では、低水素系は一般に 300〜400℃ で 30〜60 分乾燥し、すぐ使わないときは 100〜150℃ の保管容器に入れ、そこから取り出して使うとしています。乾燥後に大気中へ置ける時間の目安は、低水素系で 2〜4 時間、非低水素系で 6〜8 時間。超えたら再乾燥します。
乾燥は時間より温度の影響が大きく、低すぎると水分が抜けきらず、高すぎると被覆の成分が分解して溶接棒本来の性能を損なうことがあります。繰返し乾燥や長時間の乾燥もしすぎは禁物で、乾燥する量はその日に使う量を目安にします。
👉 数字は銘柄ごとに違います。表の値は一例なので、使う銘柄のカタログや包装に示されたメーカー条件に従ってください。被覆アーク溶接と半自動溶接の使い分けは半自動溶接と被覆アーク溶接の違いで解説しています。
■ワイヤとフラックス:開けたら守る・濡れたら使わない

鉄骨工場の主力である半自動溶接のワイヤも、湿気と錆は大敵です。日本溶接協会の Q&A では、保管が不適切で水濡れが起きるとワイヤ表面に錆が生じ、錆に含まれる水素が溶接金属の水素量を増やすうえ、ワイヤの送給性も落ちるとしています。
- 未開封:雨水による水濡れや潮風の吹付けのない場所に置く。パレットに載せ、壁から離す
- 使用中:水濡れや粉じんのおそれがある場所では、送給装置上のスプールやペールパックにカバーを付ける(粉じんは錆の核になる)
- 中断が 1〜2 日以上:送給装置上のスプールをビニールシートなどで覆う
- 長く使わない:残りのワイヤは倉庫などに移し、スプールは再包装、ペールパックは蓋をして密閉する
- 錆・水分の付いたワイヤ:新品に取り替える(日鉄溶接工業 Q&A の気孔欠陥対策)
サブマージアーク溶接用のフラックスについて、日本溶接協会の Q&A は「雨に濡れた溶接材料は廃棄処分と考えておくことが無難」としています。溶融フラックスは例外に近く、早く乾燥して水分を除き、作業性を確かめてから使います。ボンドフラックスは乾燥で成分が変わるおそれがあり、溶接には使えません。
長く置いたソリッドワイヤは、錆がなくても表面の送給潤滑剤が変化して、送給性やアークの安定性に影響することがあります。シールドガスは JIS Z 3253 のうち使うワイヤに相応したものとされています(標準仕様書 7.2.5)。👉 濡れた・錆びた溶接材料は「乾かせば使える」とは限りません。ワイヤの種類は溶接ワイヤ YGW11 と YGW18 の違いを参照してください。
■ロットと記録:受け入れから使うまで、たどれるように

溶接材料は、標準仕様書の表7.2.4 にある JIS 規格品(JIS Z 3211・3312・3313 など)か、建築基準法に基づき指定・認定を受けたものから、母材と溶接条件に合ったものを選びます(7.2.5)。受け入れのときは、まず種類の記号が指定どおりかを確かめます。
- E4916(被覆アーク溶接棒):「49」は溶着金属の引張強さの下限 490MPa の上 2 桁(日建連 鉄骨工事Q&A A-1-7)
- YGW11〜YGW19(ソリッドワイヤ):2009 年の JIS 改正後も、国内で広く使われていたため残された記号(同 A-1-9)
- シールドガスの記号:C は炭酸ガス、M は炭酸ガス 20〜25%とアルゴンの混合ガス(同 A-1-9)
- 品質の証明:材料が設計図書の品質を持つことを示す資料を用意する。JIS マーク表示品や規格証明書の付いた材料は、所定の品質を持つものとして扱える(標準仕様書 1.4.2・1.4.4)
受け入れた後は、種類・径ごとに分けて保管し、包装の表示を残したまま、古いものから使います。払い出すときには、乾燥の温度・時間や持ち出した量を記録しておくと、あとで「どの溶接に、どの材料を、どう管理して使ったか」をたどれます。
👉 考え方は、鋼材のミルシートと同じです。溶接材料も溶接部の一部になるので、何を使ったかを後から示せるようにしておきます。記録の残し方は検査記録の残し方もあわせてご覧ください。
■溶接材料の管理でつまずきやすいところ
- 段ボール箱を床に直置きし、下の箱がいつも湿っている
- 低水素系溶接棒を、乾燥せずに箱から出してそのまま使う
- 乾燥した溶接棒を作業場に出しっぱなしにして、放置時間の目安を超える
- 「念のため」と何度も乾燥し直して、許容乾燥回数を超える
- 送給装置にワイヤを掛けたまま休み明けまで放置し、表面に錆が出る
- 雨に濡れたフラックスを、乾かせば使えると思って使う
- 包装を捨ててしまい、どの銘柄・径の材料か分からなくなる
どれも、材料そのものの問題ではなく、置き方と段取りで防げることです。
■まとめ
- 吸湿・錆・汚損・変質のある溶接材料は使わない。吸湿の疑いがあれば、種類に応じた条件で乾燥してから使う(標準仕様書 7.6.4)
- 湿気は水素になり、遅れ割れ・ブローホール・作業性の低下を招く
- 保管は屋内。床と壁に直接つけず、種類・サイズごとに整理し、古いものから使う
- 低水素系溶接棒は高い温度で乾燥し、すぐ使わないものは保温容器で保管する。条件は銘柄ごとのメーカー条件に従う
- 乾燥後の放置時間には目安がある。乾燥のしすぎ・繰返しも避ける
- ワイヤは開封後にカバー・再包装で守る。錆びたワイヤは取り替える
- 雨に濡れた溶接材料は、廃棄と考えるのが無難
- 種類の記号と品質の証明を確かめて受け入れ、払出しと乾燥を記録してたどれるようにする
■参考にした基準・資料
物件ごとの仕様は、設計図書と監理者の指示が優先します。この記事の数値と用語は、次の基準・資料にもとづいています。
- 国土交通省『公共建築工事標準仕様書(建築工事編)令和7年版』:1.4.2(材料の品質等)、1.4.4(材料の検査等)、1.4.6(材料の保管)、7.2.5(溶接材料・表7.2.4 溶接棒等の種類)、7.6.4(3)(溶接材料の取扱い)、7.6.5(4)(オ)(組立溶接に低水素系溶接棒を使う場合)
- 一般社団法人 日本溶接協会 溶接情報センター『接合・溶接技術Q&A』:Q-01-01-13(溶接棒の使用前・使用中の吸湿)、Q-02-01-09(低水素系溶接棒の使用前の乾燥)、Q-02-01-10(ぬれたサブマージアーク溶接用フラックス)、Q-02-01-11(ソリッドワイヤの経時変化)、Q-05-01-44(フラックス入りワイヤの保管)、Q-11-02-26(溶接棒を乾燥させる理由)
- 日鉄溶接工業『溶接Q&A』:Q018(低水素系溶接棒を乾燥しないで使用した場合の問題)、F083(被覆アーク溶接棒について・表12 溶接材料の乾燥温度管理表)、Q033(気孔欠陥の発生原因と防止方法・表1)
- 一般社団法人 日本建設業連合会『鉄骨工事Q&A(A 工場製作編)』A-1-7(被覆アーク溶接棒の記号)、A-1-9(ソリッドワイヤの記号)
- 乾燥条件の数値はメーカー資料と日本溶接協会 Q&A の例・目安です。受け入れ・保管・払出しの記録の流れは、鉄骨製作の一般的な考え方として整理したものです(規準の数値や当社固有の手順ではありません)
■おわりに
溶接材料の管理は、目立たない仕事です。けれども、乾燥しなかった一箱、濡らしてしまった一巻が、あとから割れやブローホールとして表に出ます。濡らさない・決められた条件で乾かす・何を使ったか追える。この 3 つを置き場と段取りに組み込むことが、溶接品質の土台になります。
発信元の株式会社へむろ鉄工は、建築鉄骨の製作(Mグレード認定工場)を行っています。材料の受け入れから加工・溶接・検査まで一貫して対応していますので、鉄骨製作のご相談・お見積りはお問い合わせからどうぞ。図面(PDF・DXF)を添えていただければ、より具体的にご返事できます。これまでの製作実績もあわせてご覧ください。
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